目次(もくじ)
はじめに
「タイムカードを押した後に残業するよう指示されている。」「みなし残業と言われ、残業代が支払われない。」などの事情により、未払いの残業代を請求しようとお考えの方は、多くいらっしゃいます。
しかし、残業代の計算は複雑であり、どうしていいか分からないという方が大半でしょう。他方、「弁護士に依頼すると弁護士費用がかかってしまう。」「どの弁護士に依頼していいのかわからない。」などの理由で弁護士への依頼をためらってしまうことも現実です。
そこで、今回、弁護士に頼まず自分自身で残業代を請求する方法をご説明します。
残業代を請求するタイミングは在職中?退職後?
残業代を請求するタイミングとしては、退職後と在職中の2パターンが考えられます。
残業代請求は正当な権利であり、在職中でも、退職後であっても、請求することで非難される理由はありません。
しかし、現実的に考えると、在職中に残業代請求をすると職場で気まずい雰囲気になったり、上司から嫌がらせをされる可能性がないとは言えません。また、未払いの残業代は毎月発生するものですから、毎月自身で計算をして、その都度請求することは非常に面倒です。
他方、退職後の請求であれば、嫌がらせをされることもなく、また今後毎月残業代の計算をする必要もありません。
そして、残業代の請求を書面で行い、会社の回答も書面で提出するよう要求することで、人間関係や気まずさを気にしなくて済みます。
以上のことから、退職後に残業代を請求することが多いです。
残業代を請求する手順
残業代請求において、弁護士に依頼せず正式な裁判(訴訟)を行うことは困難です。
しかし、正確さを欠く可能性はあるものの、ご自身で未払い残業代の計算をし、会社と交渉すること自体は専門家でない方でも可能であると考えます。
また、交渉が行き詰まった場合に、労働基準監督署のあっせん手続、裁判所での労働審判手続という話し合いの手続を行うことも、努力すれば可能です。
次の手順に従って、未払い残業代を請求してみましょう。
残業代の計算
まずは、未払い残業代の計算をしてみましょう。
本来であれば、残業代の計算は、残業代を支払う義務のある会社が行うべきものです。
しかし、残業代を支払わない会社が、残業代の請求をしたからといって、素直に計算するとは思えません。
また、仮に会社が未払い残業代を計算し、支払いを提案してきたとしても、本当にその金額が妥当であるかどうか判断するためにも、自身で未払い残業代を計算することが必要でしょう。
そして、未払い残業代の計算は、次の計算式で行います。
【残業代の計算式】
残業代の金額=時給単価×割増率×残業時間
時給単価
時給単価の計算は、次の計算式で行います。
【時給単価の計算式】
時給単価=基礎賃金÷月平均所定労働時間
基礎賃金とは、支給されている給料のうち、どの手当まで時給単価の計算に含むのかという問題であり、例えば、通勤手当は、通常、基礎賃金に含まれず、時給単価の計算の基礎としません。
基礎賃金について、詳しくは、「私の時給単価っていくら?~残業代計算における基礎賃金の考え方~」をご覧ください。
そして、月給制の方の場合は、月平均所定労働時間という会社で決まった月の労働時間で割ることになります。
所定労働時間とは、決められた労働時間という意味です。雇用契約書や就業記録に月の所定労働時間が記載されていることもあります。
もし、ご自身の月の所定労働時間がわからない!という方は174時間を月平均所定労働時間と考え、時給単価を計算して下さい。
労働基準法では、1日に8時間、1週間で40時間までを労働時間として定めることができ、それ以上の労働は残業に当たるとしています。そして、この労働時間の制限をもとに、1か月に労働時間として定めることができる上限の時間を算定すると174間になります。
したがって、勤務先の所定労働時間が174時間を下回ることがあっても、上回ることは許されていませんので、174時間として時給単価を計算することに間違いはありません。
割増率
割増率というのは、残業をした場合には、通常の時給よりも割増した高い金額を払いなさいと法律で定まっていることから、その割増する程度を定めたものです。
割増率は、時間外労働、深夜労働、法定休日労働についてそれぞれ、法律で以下のように定められています。
時間外労働、深夜労働、法定休日労働とはどのようなものか?について、
詳しくは、「残業代の計算方法②~残業時間の種類~」をご覧ください。
残業時間について
最後に残業時間を計算することになります。
①給与計算期間の確認
まずは、会社の給料計算期間をご確認下さい。
例えば、1日から31日までを給与計算期間として、翌月の15日払になっている場合、本来であれば、残業代も1日から31日の残業時間を計算し、15日に支払うべきであったといえます。
したがって、残業時間の計算期間も給与計算期間と同じように考え、1か月ごとに計算することをお勧めします。上記の例の場合、1日から31日を一区切りにします。
②残業時間の計算は分単位?10分単位?
次に、タイムカード等労働時間(始業時間と終業時間)がわかる資料をお手元にご用意ください。そして、残業時間について、仮に会社では10分単位など1分単位以外の方法で残業代が計算されていたとしても、それに従う必要はありません。塵も積もれば山となる、という言葉のとおり、1分刻みでもそれが積み重なると大きな残業代になることがあります。したがって、1分単位で残業時間を計算しましょう。
なお、タイムカードがない方は、「タイムカードがない場合の残業代請求」をご覧ください。
③残業時間を3つに区別する
そして、残業時間は割増率の区別に従って、次の3通りに区別して、それぞれ計算することになります。
ⅰ時間外労働時間
時間外労働時間とは、1日8時間、1週間で40時間を超える残業のことをいいます。
そして、ここでいう1週間とは、会社の就業規則等で決まっている場合を除き、日曜日から土曜日を1週間とします。例えば、日曜日が休みで月曜日から土曜日まで毎日8時間働いている方は、月から金の間に少なくとも40時間は働いていることになります。すると、土曜日に8時間働いたとすれば、この土曜日の勤務は初めから1週間に40時間超えの残業となりますので、土曜日の労働には始業から就業まで時間外労働として残業時間を計算することになります。
ⅱ深夜労働時間
深夜労働というのは、22時以降翌朝5時までの労働のことをいいます。
ⅲ法定休日労働時間
休日労働というのは、その言葉のとおり、休日に働くことです。
しかし、単なる休日労働ではなく、「法定」という言葉が付いています。
これは実は、「会社が従業員に与えることが法律上義務づけられている休日は週に1日だけ」ということを意味します。例えば、土日が休日の会社の場合、土曜日に休み、日曜日に休日出勤したとしても、土曜日に休んでいる以上、日曜日の出勤は、「法定
休日」労働には当たりません。
したがって、週に1日も休まず出勤した場合のみ、法定休日労働時間になります。
内容証明郵便の送付
以上の計算方法によって、未払いになっている残業代の金額がわかったことと思います。
では、その未払い残業代を請求してみましょう。
未払い残業代を請求するためには、請求書を内容証明郵便で送付することが必須です。
口頭での請求はお勧めしません。なぜなら、未払い残業代の請求には時効があり、内容証明郵便にて請求書を送付しなければ、時効の関係で紛争になることがあるからです。
内容証明郵便とは何か?その書き方はどうするのか?については、「弁護士が教える残業代請求をするための内容証明の書き方」をご覧ください。
また、時効との関係でどのような紛争になるのかについては、「残業代請求の時効と弁護士が内容証明を送るワケ」をご覧ください。
会社との交渉
請求書を内容証明郵便にて、会社に対し送った後から、会社との交渉が始まります。
会社は、自身で対応するかもしれませんし、顧問弁護士など弁護士に対応を依頼するかもしれません。
未払いとなっている残業代は直ちに支払われるべきです。
ただし、現実的に考えると、会社も事実関係を調査したり、残業代を計算する時間が必要になります。また、弁護士への相談日の調整も必要でしょう。
そのため、請求から会社の回答まで1カ月程度必要になることもあります。
会社自身で対応するにしろ、弁護士に依頼するにしろ、1個人である皆様とは知識の量や交渉力に差が出てきます。
そこで、弁護士に依頼せずとも、弁護士に相談しながら、交渉することが必要になってきます。弁護士といえば、相談料を30分で5000円とられるというイメージがありますが、最近は多くの弁護士事務所で無料相談を受け付けていますので、お気軽にご相談下さい。
また、会社とのやりとりは、口頭で行うのではなく、書面でやりとりをするべきです。
なぜなら、書面で回答を求めるなど書面でやりとりした方が、弁護士に相談する際にも資料として見せることができますし、ご自宅でゆっくり検討できるからです。
最後に、交渉が行き詰まって、なかなか前に進まない。という場合には、労働基準監督署に出向き、助力を求めることもできます。
残業代未払いというのは、法律に違反する行為です。そこで、監督する立場である労働基準監督署が行政指導をし、改善を促すことがありますので、援護射撃を期待できます。ただし、みなし残業代の有効性など法的な争いがある場合には、労働基準監督署は、法的な争いまで立ち入りませんので、注意が必要です。
みなし残業代の有効性については、「みなし残業という残業代の定額払いって違法じゃないの!?」をご覧ください。
内容証明郵便を送り、会社との交渉を始めてから、6か月が一つの目安となります。
なぜなら、内容証明郵便を送付してから、6か月が経つと、時効により、残業代の一部が請求できなくなるからです。
したがって、内容証明郵便を送ってから6か月以内に、①示談する、もしくは②労働審判を申立てる、のどちらかを選ばなければなりません。
労働審判で残業代請求
労働審判というのは、裁判所で裁判官、労働審判員が仲介に入った上で、話し合いをする手続のことをいいます。
労働審判では、約3カ月の間に3回程度裁判所に出向き、話し合いをすることになります。話し合いと言っても、裁判官が、法的な判断を示すことになりますので、裁判官の判断に沿った和解が成立することが多いです。
労働審判の手続について、詳しくは、大阪地方裁判所労働部のホームページをご覧ください。
あっせんで残業代請求
あっせん手続とは、労働局や労働基準監督署に関連する紛争調整委員会という労働関係の専門家が、話し合いの仲介をするという手続きです。
労働審判とは異なり裁判所主導で行われる手続ではありませんので、会社が手続に参加しないという場合が多くあるようです。
あっせん手続の詳細については、中央労働委員会のホームページをご覧ください。
最後に
以上が、ご自身で残業代を請求する方法になります。
ご自身で残業代請求をしてみることは大切ですが、時効の問題に注意をしながら、交渉しなければなりません。仮に時効が成立する直前になって、弁護士に相談、依頼したとしても、時間的な余裕がないため、時効が成立するまでに労働審判を申し立てることはできない可能性があります。
したがって、依頼するかどうかは別として、あらかじめ信頼できそうな弁護士を見つけるためにも、早めに弁護士に相談に行かれることをお勧めします。
大阪バディ法律事務所は、残業代請求について豊富な実績があり、複雑な残業代計算にも対応できます。
また、労働審判、訴訟の場合でも、初期費用は頂いておりません。
是非、当事務所の弁護士に一度ご相談(無料)下さい。