固定残業代に関する注目すべき裁判例として、長崎地裁平成29年9月14日判決(サンフリード事件・労働判例1173号・51頁)を取り上げます。
この裁判例は、就業規則の変更により導入した固定残業代の有効性が問題となった事案です。
固定残業代とは、実際の残業の有無に関わらず、毎月一定額を残業代として支払う給与制度のこといいます。
固定残業代自体は不適法なものとはいえませんが、この制度を悪用して残業代の支払いを不当に免れようとする会社は数多くありますので、給与の一部に固定残業代が含まれているような場合にはその有効性についてよく検討する必要があります。
上記の裁判例は、これまで職務手当等の名目で支給されてきた給与が就業規則の変更により、固定残業代として支給されることになった事案で、就業規則を変更することにより、賃金の一部を固定残業代に変更することの可否が問題となりました。
この点について同裁判例は、これまで通常賃金として支払われていた給与を残業代として支払うように変更することは、通常賃金の単価の引き下げにあたるので不利益変更にあたるうえ、就業規則変更の手続きも適法に行われていないとして、固定残業代を無効と判断しました。
通常賃金を固定残業代に変更することは明らかな不利益変更ですし、残業代の支払いを免れるための強引な便法といえます。
したがって、上記の裁判例は当然の結果といえます。
そして、上記裁判例は珍しい事案ではありません。当事務所所属弁護士が過去に扱った事案においても、いつのまにか就業規則が変更されていて、給与の一部が残業代となっていたケースは多数ありました。
このような場合には、まず変更された就業規則が適切に作成され、労働基準監督署に届けられているのかを確認する必要があります。
そのうえで、就業規則が変更される前の給与明細を確認し、変更前と変更後で給与額等に変化がないにもかかわらず、就業規則の変更により、給与の一部が固定残業代に変更されたため、通常賃金の単価が下がってしまったことを確認し、就業規則変更の不当性を主張していくことになります。
また、就業規則の変更が数年前であったとしても、同変更が不利益変更にあたる場合には無効と主張することはできます。過去に10年以上前の就業規則の変更を無効として、多額の残業代を獲得したこともあります。
固定残業代に関する就業規則の変更はいろいろなケースがありますので、もし、ご自身に少しでも当てはまることがある場合には、お気軽にご相談ください。