目次(もくじ)
1 はじめに
トラック運転手は、拘束時間が極めて長く、長時間労働が常態化している職業です。多くのトラック運転手は1日8時間、週40時間を超える労働を行っています。
そのため、残業代の未払が発生していることが多い職業でもあります。
当事務所でも、これまで多くのトラック運転手の残業代請求を扱ってきましたので、トラック運転手の残業代請求特有の問題について、以下でまとめます。
2 労働時間は運転日報で証明できるケースが多いです
⑴ 運転日報が存在すること
残業代請求を行う場合に、最も重要な点は労働時間の立証です。
もっとも、トラック運転手の場合、労働時間の立証について、比較的容易に証明できることが多いです。
トラック運転手の場合、運転日報(運行日報という場合もあります)と呼ばれるトラックの運転記録を保存することが義務付けられており、この運転記録の保存は1年間必要です。
そのため、トラック運転手の残業代請求を行う場合には、まず、運転日報の開示を請求し、事業者から開示を受けた日報に基づいて労働時間をかなり正確に算定することができます。
⑵ 実際の経験
これまで当事務所で扱ってきたほとんどのケースでも、何の資料もない状態で依頼を受け、弁護士の開示請求により、事業者から運転日報の開示を受けております。
なお、運転日報には、デジタルタコグラフとアナログタコグラフが存在しますが、経験上、ほとんどの事業者はデジタルタコグラフを導入しているため、改ざんの可能性は極めて低いといえます。
⑶ 開示してこない事業者に対する対抗手段
以上で述べたように、ほとんどのケースで運転日報の開示を受けることが可能ですが、合理的な理由もなく運転日報の開示を行わない悪質な事業者も存在します。
そのような事業者に対しては、証拠保全という裁判前の手続により、裁判官と予告なく事業場に乗り込み、写真に収めるなどの方法により、運転日報を記録する方法があります。
また、別の方法として、すぐに訴訟を提起し、文書提出命令という裁判上の手続により、裁判所を通じて事業者に運転日報の開示を義務付け、事業者がこれに応じない場合には事業者に不利な認定を求めるという方法もあります。
3 労働時間に関するトラック運転手特有の注意点
既に述べた通り、トラック運転手の場合、運転日報により労働時間の証明が可能です。もっとも、以下で挙げるような、労働時間に関するトラック運転手特有の問題もあります。
⑴ 手待ち時間
手待ち時間とは、現に作業を行っているわけではないが、荷物の積み込み待ちなどの理由で、一定の場所で待機を余儀なくされている時間です。
このようなトラック運転手特有の待機時間も労働時間となります。
もっとも、全ての待機時間が手待ち時間として労働時間になるわけではなく,待機時間が労働時間になるといえるためには、時間的・場所的な拘束性が必要です。
例えば、荷積み開始時刻が数時間後になることが確定しており、その時間までの自由行動が認められているような場合には、自由行動時間中は場所的拘束を受けているとはいえないので、手待ち時間とはいえないことになるでしょう。
トラック運転手の場合、業務中に手待ち時間としての待機時間が生じる場合が少なからずあります。そして、手待ち時間については、運転日報上は「待機」などと記録されますが、日報のみではその「待機」が労働時間と評価される「手待ち時間」に該当するかどうかは判断がつきません。
そのため、具体的事情に応じて、待機時間を労働時間として主張することができるかの検討を行うことが必要です。
⑵ 荷積み荷下ろしの時間
トラック運転手の場合、荷物を積み込んだり、降ろしたりする荷積み荷下ろし作業を行う必要があります。
しかしながら、タコグラフにはこの荷積み荷下ろし作業に要する時間について、記録されていない場合が多いです。
また、デジタルタコグラフの場合には、荷積み荷下ろし作業として記録することができますが、事業者から、荷積み荷下ろし作業中であっても、休憩中と記録するように指示されている場合も少なくありません。
そこで、このような荷積み荷下ろし作業に要する時間についても詳細に主張することが必要となります。
なお、荷積み荷下ろし作業については、運転日報に記録が残っていないとしても、作業に要する相当な時間については認められる余地が十分ありますので、諦めずに主張していくことが重要です。
⑶ 洗車時間
トラック運転手は運行作業終了後に洗車作業を行うことがあります。洗車作業は、1週間に1度などの頻度で行うことを義務付けている事業所が多いです。
このような洗車作業も当然に労働時間に該当しますが、運転日報に記載されませんので、客観的な資料に基づき時間を主張していくことはできません。
もっとも、トラック運転手の場合、洗車作業を行うことが通例となっておりますので、資料がないからといってこの時間が一切存在しないということもありません。
結局、訴訟などをした場合には、事業所の運用状況に応じて、通常要する洗車時間程度は労働時間として認められることが多いですので、諦めずに主張すべき項目です。
4 固定残業代や歩合給などの給与項目に注意!
残業代請求を行う場合に、会社側からは固定残業代などの反論がよく行われます。また、給与の一部が歩合給であるとの反論もよく行われます。
⑴ 固定残業代の反論で気を付ける点
固定残業代とは、基本給与の一部を残業代として支給する支払方法で、多くの会社で導入されています。
固定残業代が導入されている場合、給与の一部が残業代となりますので、その分、請求できる残業代の額が少なくなってしまいます。
固定残業代に関しては、以下の点に気を付けて反論する必要があります。
① 固定残業代はいつから導入されたものか?
固定残業代は、従業員の知らない間にいつの間にか導入されている場合があります。例えば、従業員への周知もなく就業規則を変更することで固定残業代を導入したり、これまで基本給与として支払っていた賃金を減額し、その減額相当分を固定残業代に充てるような方法で固定残業代を導入したりすることがあります。
このような導入方法に不正がある固定残業代は無効となる余地がありますので、固定残業代が導入された経緯をよく検討することは重要です。
② 固定残業代は明確に区別されているのか?
また、杜撰な会社の場合、基本給のうち2割は固定残業代であるなどと就業規則で定めるだけで、固定残業代の額について明確な明示を行っていない場合があります。
このような明確な明示を欠く固定残業代は無効となる可能性が極めて高いですので、固定残業代という規定があるだけで諦めずに、その内容の具体性を検討することが大事です。
③ 違う趣旨の手当まで固定残業代として扱われていないか?
さらに、トラック運転手でよくある手当の「無事故手当」「運行手当」などの残業とは無関係の手当を固定残業代として扱う会社があります。
このような業務に関する残業とは別の趣旨で支払われている手当を残業代の趣旨も兼ねて支払うことは、当然、許されませんので、固定残業代の範囲についても検討し、残業代とは違う趣旨の手当までもが固定残業代と規定されているような場合には、残業代としての実質がないとして、争うことが重要です。
⑵ 歩合給で気を付ける点
歩合給とは、固定給とは異なり、出来高に応じて賃金が支払われる給与体系のことを言います。トラック運転手の場合、固定給と歩合給の2種類の賃金を合わせた給与体系を採用しているケースや、完全歩合給制を採用しているケースも珍しくありません。
歩合給の場合、主に以下の点に注意する必要があります。
① 歩合給に対する割増賃金が支払われているか?
会社側にありがちな反論の一つに、歩合給だから残業代は出ないとの反論があります。しかし、これは明らかな間違いで、歩合給であったとしても、その歩合給賃金に対し、割増賃金としての残業代を支払う必要があります。
なお、歩合給の割増賃金の計算の仕方については、こちらを参考にしてください。
② 最低賃金を下回っていないか?
歩合給の場合、賃金額は労働時間数に比例しないことがあります。つまり、長時間労働を行ったとしても、支給される賃金額が僅かであることも理論上可能です。
もっとも、歩合給の場合でも、最低賃金の規制はかかり、歩合給賃金が最低賃金額を下回るような場合には、その差額を支払う義務が会社側にはあります。
自身の歩合給額が最低賃金を下回っているかどうかを判断する方法は、1ヶ月の支給額を総労働時間で割ってみて、1時間当たりの賃金額を計算することで分かります。
もし、この方法で計算した1時間当たりの賃金額が最低賃金額を下回るような場合には、その差額を請求することが可能です。
5 残業代請求と転職時の影響
「残業代請求を行うとその後の就職活動に悪影響が出ないか」との質問をよく聞かれます。
特にトラック運転手さんの場合、退職後に、別の運送屋で勤務するというケースが多いです。そのため、中には残業代請求を行うと他の運送屋にも噂が回って、再就職に影響が出るのではないかと心配される方もいらっしゃいます。
この点は、ケースバイケースですので、断言はできませんが、これまで数十件程度、トラック運転手の残業代を扱ってきましたが、ほとんどの依頼者は残業代請求と同時に他の運送屋に就職し、その後に残業代請求を行ったことが原因で支障が生じたとの連絡は受けておりません。
そのため、残業代請求を行ったという情報が出回り、転職に悪影響を及ぼすということはほとんどないように思います。
6 最後に
また、労働審判、訴訟の場合でも、初期費用は頂いておりません。
もし、残業代請求をすると決意された場合には、是非、当事務所の弁護士に一度ご相談(無料)下さい。