会社が労働者に対し、法定時間外労働、深夜労働、法定休日労働に対する割増賃金を支払わなかった場合、裁判所は、労働者の申立により、未払割増賃金額と同一額の付加金の支払いを命じることができます(労働基準法114条)。
これは、労働者が、会社に対し、未払割増賃金500万円の支払いを請求し、認められた場合に、さらに、裁判所は未払割増賃金と同一額の付加金500万円の支払いを会社に命じることができるということです。
つまり、付加金が認められた場合、割増賃金額が最大で2倍になります。
もっとも、付加金は必ず割増賃金額と同一額が認められるわけではありません。
割増賃金を支払わなかった会社の態度に、やむを得ない事情が認められるような場合には、その程度に応じて付加金は減額されたり、ゼロとされたりします。
また、付加金は会社が労働者に対し割増賃金を支払わないことに対する制裁ですので、割増賃金の不払い状態が長期間継続していたとしても、最終期限までに会社が割増賃金とその遅延損害金の全額を支払えば、付加金はゼロになります。
そして、この最終期限とは、「控訴審の口頭弁論終結時」です。
つまり、会社が第1審裁判手続で割増賃金とその付加金の支払いを命じられたとしても、続く第2審である控訴審の終結時までに、1審で認められた割増賃金とその遅延損害金の全額を支払った場合には付加金はゼロとなるのです。
裁判実務においては、第1審で敗訴した会社側は控訴審で付加金の支払いを免れるために割増賃金及びその遅延損害金の全額を支払い、付加金をゼロにすることが多いです。
そのため、付加金によって、割増賃金が2倍になるということは、実際はほとんどありません。
そうすると、一見、付加金が無意味なように思えますが、会社としても付加金の支払いを免れるために、控訴審では無用な争いを避け、速やかに割増賃金及び遅延損害金の全額支払ってきますので、賃金の支払いを確保するという意味においては、付加金に大きな意義があるといえます。